壁にかかった一枚の絵 ―阿蘭陀船ノ図ー

 NHKの大河ドラマ「功名が辻」が始まりました。時代劇は好きですから興味深く視ています。私の先祖もまた、具足を背負って青雲の志に燃える侍奉公、若き山内一豊とは同じ織田の家中でしたから「ヤア!」くらいの挨拶はかわしていたことでしょう。

 我が家には先祖伝来の品々が残っています。古びた脇差や、曲垣流馬術の巻物のような古文書の類です。もっとも、私の父がジイ様から貰った時に「お前は四男だから良いものはやれないよ」と言われたとか。だから、骨董価値があるはずがありません。私が父から受け継いでからも,それらは押入れの中で眠っています。

 この品々の中で、私が最も好きなものは、私の子供のころから、玄関の壁にかかっていた「阿蘭陀船ノ図」です。当時の住まいは和風の木造建築でしたから、その絵の表装も朱塗りの枠がついた日本画。それを今の家に建て替えたあとに、洋風の額縁に変えて居間に飾りました。
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 この絵の由来は、先祖が長崎で写生してきたもの、と今は亡き父が言っていました。しかし、船の型は明国のジャンクに似ており当時のオランダの帆船とは、およそかけ離れています。多分、誰かが想像して描いた絵を手本に模写したものでしょうが、その真偽の程は分かりません。


 それでも私が気に入っている理由は、オランダのカピタンにまじって、黒人や東洋人のクルーが描かれており、その航海の有様がいかにも当時の日本の長崎貿易を彷彿させるからなのです。

 家を新築し、結果として家財のガラクタが出ました。中にはゴミとして棄てるには忍びないものもあったので、骨董商をよんで、値踏みをしてもらうことにしました。

 予想通り、ガラクタはそれ相応の値しか付きませんでした。骨董商の帰り際、私は壁にかかった「阿蘭陀船ノ図」の価格を聞いてみました。彼が始めからこの絵に興味を示さなかった訳がわかりました。それは額縁の値段にもならなかったからです。

 そんなことがあっても毎日、私は飽きもせずこの絵をながめています。今後、一生の間もこの絵をわが友として、見続けることになるでしょう。

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