秘密は誰かに喋ったが最後、みんなに知られている。―実際に見たアラブの格言

  私たちはよく言いますね 「これ秘密なんだが」 「オフレコにしてくれ」、しかし、ほとんどが守られていないのが実状かと思います。 アラブ社会でも同じ、しゃべったら最後だれかに伝わることは間違いなさそうです。アラブ人の部下たちと会議で決めた入札のコンフィデンシャルの内容がいち早く相手先の数社に漏れていました。エッ!なんで知っているの・・・? 問い合わせの電話もかかってきます。もちろん、この入札の条件は別の案でオファーしましたが、ワイロをもってくるヤツもいて神経くたくたになることも何回もありました。

 この仕事を任せてほしい、これはあなたへのバクシーシだと、輪ゴムで無造作に留められた分厚い札束をデスクの上にドンと置かれたときはビックリ、すぐ、2人のアラブ人スタッフを呼んで通訳方々、すぐお引き取り願いました。まったくあからさまな買収行為。 これじゃあ袖の下なんて優雅な?言葉は当地にはないんでしょうね。 

 この2人のアラブ人は私がワイロを受け取らなかったという証人です。この業者にも来る日の入札説明会に出席してくれ、と顔を立てると同時に公明正大に事を運ぶぞ、とのメッセージを送りました。(結局この業者は出席しませんでした)

 ほかにもあります。 労務部に提出した人事考課が2日とおかず当人の耳に入ります。書類のカバーにはConfidentialの字が躍っているのに・・・。自分の評価を知った彼は血相を変えて「なんであいつの方が良いのだ!」と毎年何人からもクレームを受けます。そのたびに反論しなければなりません。

秘密は誰かに喋ったが最後、みんなに知られている。
  
 この採点は労務部の担当者から100パーセント全員に漏れるものだとわかりましたから、対策として採点の根拠となるものをちゃんとノートに書き込んでおきました。しかも、当人にはいつ、どういうことで注意を与えた、と目の前でこういうことだねと確認してノートにかきこんで、後々の証拠としたわけです。
 
 そのうちにその内容よりも宗教や部族の序列などを引き合いに出して「あいつより俺の方が部族ではランクが上なのに成績が悪いと顔が立たない」 また、パレスティナ人の評価が上だと「なんで、出稼ぎのヤツに良い点をつける、ここは俺の国だ」」など屁理屈を並べるようになりました。

 がんとして譲りませんでしたから私に見切りをつけた彼らはアラブ人の上司に直訴して、上司も良い顔を見せたいのか、いつのまにか評価はランックアップされるのが常でした。ABCDEに分かれた勤務評定の振り分けには枠がありますから、評定に文句を言わない日本人従業員は全員Cランクをつけられていました。東京本社も「まあ、これは現地だけの問題だからねえ」と 日本人は別の基準で評定されていたようですが・・・これで現地で働いている日本人従業員のやる気が向上するのでしょうか? 世の中には納得のいかないことが多いですね。 

 と、いうわけで在任中、私は仕事上の秘密はできるだけ他人に漏らさないようにしていました。なんで教えてくれなかったと部下たちには不評さくさくでしたが仕方ありませんね。アラブには「秘密は誰かに喋ったが最後、みんなに知られている」という格言があるのですから。

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