復讐はありきたり。慈悲は希有ー実際に見たアラブの格言

  アラブでは、復讐をすることは当たり前のようです。イスラム国(ISIL)にパイロットを惨殺されたレバノン、また、コプト教徒(キリスト教の一派)を21人も殺されたエジプトも報復のためリビアのイスラム国に同調する過激派にそれぞれ空爆を行いました。 これは、国内の世論の高まりで政府もやらざるを得なかった面もありますが一方、平和を重んじる日本では2人の犠牲者にたいしては打つ手がなかったのです。 テロとどう向き合えばよいのか難しい問題ですが我が国は人道支援を推し進めるのが大切かと思います。理をつくした話し合いに聞く耳をもたないテロ集団、これに対する報復はまた新たな犠牲者を生みます。

復讐はありきたり、慈悲は希有

 このアラブの格言通り、復讐はアラブ社会では一般的にも行われています。 私がアラブの地で仕事をしていた時に、いやなニュースがありました。 中東のさる国で車を運転していた英国人が誤ってアラブの子供をひき殺してしまったというものです。 裁判所は慰謝料を支払うことを再三にわたり勧告したのですが、犠牲者の子供の父親は、この英国人の息子をシャリア法にしたがって同じようにひき殺すと頑として譲りませんでした。 英国政府もまた助命を嘆願しましたが受け入れられず、結局、加害者である父親が身代わりとなったそうです。

 この話はアラブ人スタッフから聞いた話なので誇張もあるかと思いますが、当時、私は妻と二人の息子と現地で暮らしていましたから、これを聞いて震えあがったものです。皆の間でも車の運転には細心の注意を払わねばと話題になったニュースでした。

 聖クラーン(コーラン)には

「われはかれらのために律法の中で定めた。生命には生命、目には目、鼻には鼻、耳には耳、歯には歯、もろもろの傷害にも、同様の報復を」

 これだけ読めば、なんと残酷なと思いますが、これに続いて次のような文言があります。
「しかしその報復を控えて許すならば、それは己の罪のつぐないとなる」
注)クラーン第五章(マイーダ)45:世界イスラム連盟 日訳・注解聖クラーンより

 また、キリスト教の新約聖書でも、この言葉は寛容の形になっています。

 「目には目を、歯には歯を」と命じられたのを、あなたがたは聞いている。しかし、わたしはあなたがたに言う。悪人には逆らってはならない。もしだれかが、あなたの右のほおを打ったならば、他のほおをも向けなさい・・・」
注)マタイ伝5-38より

 更には最古の仏典の一つとされるダンマパダでも
「恨みに報いるに恨みを以てしたならば、ついに恨みの息むことがない。恨みをすててこそ息む」
 註) 中村元 氏 訳
 と、世界の三大宗教界でも復讐を諌めています。

 人間は復讐のためにはわれを忘れてしまう、その気持ちもわかりますが別のアラブの格言にも、

敵に勝ったなら、彼を打ち負かした事への感謝のしるしとして、彼を許せ

あるいは
敵が和平に向かおうとしたら、同じ方向に向かって神を信頼せよ

 と、ありますから、やったらやり返せと報復の繰り返しは避けられるのではないでしょうか。

 現在、アラブの春は「春一番」の突風となって年がら年中吹き荒れています。イラク、シリア以外の各地にも飛び火しつつあります。 

 早く中東の戦火がおさまって、平和な日の訪れが来るよう祈るばかりです。アラビアの日常の挨拶は「アッ・サラーム アレイクム!(あなたに平和を)」 「ワ アライクム サラーム!(あなたにこそ平和を)」なのです。

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