壺を一個割られたら百個割返せ-実際に見たアラブの格言

  昨年TVのドラマで倍返しという言葉が流行りました。やられたらやり返せ。アラブでは権力を握ったら徹底的に敵対する相手を打ちのめしてしまいます。これはお隣の国々でも見られることですから、国際的な事柄かもしれません。2010年から2012年にかけてアラブ世界に発生した民主化の波で、時の政府の独裁者達は追放されたり殺されたりしています。次の権力者も又、自分に敵対する勢力を一掃しようとするので民衆には受け入れ難いのでしょう。とくに部族間や宗教的な派閥のあいだでは「やられたらやり返せ」と、いつまでたってもきりがありません。 


壺を一個割られたら、百個割返せ

 ガザをめぐってイスラエルとハマスの対立、シリアやイラク、また、ウクライナの紛争でも和平の合意はすぐ反古にされ出口が見えてきません。このアラブの格言のように百倍返しをするまで収まらないのでしょうか。

 私がサウジアラビアにいたころ、仕事の上であるアラブ人に恨まれ悪口を言いふらされたどころか、さんざん嫌がらせを受けた事があります。 まさに徹底的に相手を打ちのめさねば収まらないのでしょう。 幸いにして政府との会議でその男と同席した時、窮地に立った彼を庇った発言をしたことで以後和解出来ました。これは彼に有利な配慮をしたという理由だったからでしょう。 だが、彼に壺をもう50個は割られていたであろう私にとって複雑な気持ちであったのはたしかですが・・・。

 利害が対立している中で交渉する場合、一歩さがれば相手は二歩進んできます。

 私がアラブの地に赴任した当初は「理をつくして話し合いをすれば、相手は納得してくれるはず」と考えていましたので、これが原因でなんども苦い目にあいました。そのため三歩進んで(かなり理不尽なことを言って)相手に二歩進まれても残りの一歩は次の手段のために残しておきました。まあ、当地ではお互いが突っ張りあって、交渉事は決裂するのが常ですから仕方ありませんでした。

砂漠を渡るキャラバンはその地のラクダを選ぶ

 郷に入らば郷に従えを実践したわけです。

 東京に帰ってきても、この習慣が染み付いてしまったのか妻からは「あなた人が悪くなったわね」と言われてしまいました。やはり、日本は和をもって貴しとなす、のお国柄ですね。

    

 1991年の湾岸戦争の直後、アメリカ人が言っていたジョークを思い出しました。

 アラブ人は二人でいると終日お茶を飲みながら平和理におしゃべりを楽しんでいる。そこに一人仲間が加わると政治の話がはずみアメリカはけしからんということになる。そういうグループが集まって武装組織が結成される。怒ったアメリカはそれをつぶそうとするから、彼らはますます過激になる。 

 黙って見ていれば連中は仲間割れしてばらばらになってしまう。最後に残った二人はまたお茶を飲みながら平和に一日中おしゃべりをしている。だが、そこにまた一人が加わわれば、また・・・というものでした。

 あれから、23年たってもこのジョークが現実となって続いているのは情けないことですね。アラブの私のサディーキ(友達)たちよ、なにか良い解決の道はないものでしょうか。  

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