砂漠の国で寿司食いねえー私が寿司ネタにしたアラビアの魚たち

ええっ! こんな魚しかないの! こんなネタじゃあ寿司を握れねえよ~。 アラビアの魚市場で思わず叫んでしまいました。 アラブの人たちは生で魚を食べる習慣はありませんから、鮮度を保つ流通システムなんかありません。 ましてや、活き締めするなど聞いたこともないでしょう。 台に載せられた数々の魚の見栄えを良くするためか、魚屋の親父は時折バシャバシャ水をかけているだけです。 「これじゃあ、自分で釣りするしかないな」


1970年代のこと、寿司が大好物のこの私を勤め先の会社は寿司なんか食べられないサウジアラビアに転属を命じました。 カフジというアラビア湾(ペルシャ湾)に面したサウジアラビアの東部の町で勤務していた時のの話です。

その後も80年代、90年代の3回に亘り赴任しました。 その頃にはサウジの都会のレストランにはSUSHIのメニューが並ぶようになりました。 現地の魚屋の状況は改善されてはいますが鮮度は以前と変ることはありませんでした。

と、いうわけで延べ18年にわたるサウジの勤務を終え1998年に帰任するまでスシネタは自分の釣りで調達してきました。

アラビア湾の魚は日本では見たこともない種類もあり、これが食べられるかどうか魚屋に持ち込んで聞いたり、グルメな先輩にお伺いを立てました。 毒魚に当たって白木の棺に入れられ無言の帰国なんかはいやですからねえ。



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生活に慣れてくると、仲間をあつめて寿司屋のまねごとをするようになりました。 道具一式は東京から取り寄せました。 名前も「らくだ鮨」、「寿司処あらじん」など、思いつくまま変えました。

アラビア湾内の魚の種類は豊富です。 駐在員の家族を集めた寿司パーティの当日には仲間と釣りに出かけ材料を集めます。 まずは定番の寿司ネタからご紹介しましょう。 たくさんあるよ~

アラビアの魚には和名はありません。 かと言ってアラビア語でネタを注文しても寿司を食べた気がしませんネ。 そこでスシ名として日本の近似種の名を入れました。 あれっ? これ食材虚偽表示ですかねえ。
勘弁してください。

せっかく図鑑で調べたので学名も併記しました。 大きさと重さは私が釣った平均的なものです。 当地は石油の産地なのですが、不思議なことにアラビアの魚たちはどれもあぶらが乗っていない淡白な味ですねえ。

タイの仲間



画像フエフキダイ
46cm 1.5kg
学名:Lethrunus nebulosus (Forskel,Blegvad 1944)
英語 :Blue Spotted emperor
アラビア語:Sheiry
湾内のどこでも生息しています。 一年中釣れます。 赴任中いつでも食べたネタです。 この魚は沖縄にも生息していますからチャンスがあったら試食してください。


画像タイワンダイ
 40cm 1.2kg
学名:Argyrops filamentosus (Valenciennes)
英語 :Red –stripped sea bream
アラビア語:Andag
 身が薄く、さばきにくく寿司ネタよりも、ちらしか押し寿司に向いています。
あぶらは乗っていません。 アラビアなのになぜタイワンダイなのか分かりませんが?


画像インドダイ
 40cm 1.2kg
学名:Argyrops spinifer (Forskal, Smith 1949)
英語 :Red-stripped sea beam
アラビア語:Kofer
 この魚はオスでメスがタイワンダイかと思っていました。このオッサンの頭のこぶはタイワンダイのカーチャンにひっぱたかれたからだと冗談いっていました。けれども、図鑑を見るとちがうのですねえ。味は同じく 淡白です。


画像アラビアクロダイ
40cm 1.0kg
学名:Acanthopagrus latus (Houtuyn)
英語 :Yellow finned Black seabream
アラビア語:Sheim
けっこう美味しい魚です。 船で沖に出なくとも、海岸で釣れますから楽です。 仕事が終った夕方、 ちょっと釣りでもと海岸に駆けつけます。


画像アラビアチヌ
65cm 1.7kg
学名:Acanthopagrus cuvieri(Day)
英語名 :Silvery Sea Beam
アラビア語:Sobaity
当地のタイのスシネタの中では一番美味しいのが これ! 海岸で釣れます。 引きの強さは釣り人を魅了します。 一匹で家族の夕食十分。 また食べたいな。


画像レッド・スナッパー
39cm 1kg
学名: Lutjanus cocineis (Cuvier Valenciennes)
英語 : Red Snapper
アラビア語: Hamrah
確かアメリカの寿司屋でマダイと偽って出していた魚がこれ。 偽装だと新聞ダネになりましたが、けして不味くはありません。


画像イトヨリ
25cm
学名:Nemiptenus tolu (Cuvier, Valenciennes)
英語 : Notted-thread fin Beam
アラビア語: Bassi
アラビアではポピュラーな魚、スルタンイブラヒムの名で親しまれています。 釣りに出るとかならず掛かってくるからネタは事欠きません。 身が柔らかいので、三枚におろしたあと、酢でしめます。 皮をひかないで食べられるから一寸、豪華に見えます。

カツオの仲間


画像スマ
82cm 6.2kg
学名: Auxis affnis (Cantor)
英語 :Frigata Mackerel
アラビア語:Babab
当地ではマグロの代わり、赤身だから皆はマグロだ美味しい! と誤解しています。 黙っていよう・・・・。

アジの仲間


画像アジ 25cm
学名:Trachurus japnicus
英語 : Saurel, Horse Mackerel
アラビア語: Hamam
アラビア人はこんな小さな魚は食べませんが、 空揚げの作り方を教えたらカルシューム分が体に良いと評判になりました。 カフジでは、アジの名で通っています。


画像ヒラアジ
52cm 2.1kg
学名:Caravx chrysophrys(Cuvier)
英語:Long-nosed Travally
アラビア語: Hamam
群れにあたると多量に釣れるから大人数のスシパーティでは不足しないネタ。 淡白な味の魚です。


画像オオアジ
38cm 700g
学名:Caranx kalla (Cuvier, Valenciennes)
英語 : Herring Trevally
アラビア語: Hamam
元来は干物に向いているが、スシネタでは酢醤油でしめてから握るのが常でした。 クウェイトやバーレンのホテルやレストランのアジの焼き物やスシの材料はこれ。


画像コガネシマアジ
60cm 2.2kg
学名: Guthanadon speciosus (Forskal)
英語 :Golden toothless Trevally:
アラビア語:Bayad
9月になれば、釣れ出す季節ものです。 1本でも釣れればその時は即、すしパーティを開催。 美味しい魚の一つです。


画像イケガツオ
1m 3.7kg
学名:Scomberoides commersonianus(Lacepede)
英語 : Talang Queen Fish
アラビア語:Pandu
この魚の強烈な引きと格闘するのは楽しいが味はいまいちです、不漁の時にはスシネタの助っ人となりますがいつも余る材料の一つ。 現地の日本人の呼び名はシイラ、日本のシイラのほうが余程うまいのだが・・・。

その他


画像ハタ
100cm 10kg
学名:Epinephelus taubina (Forskel 1775)
英語 : Brown-spotted Grouper
アラビア語: Hamoor
アラビアではもっとも有名な魚、さしずめミスターサマック(ミスターおさかな)でしょう。 ただし、1メートルの巨体だから捌きにくい上、身がプリプリしすぎていてスシネタには向きません。 50cmくらいのサイズは使ってはみましたが・・・。


画像キス
25cm
学名:Cheilodipterus macrodonn(Lacepede 1802)
英語 :Silver Sihama
アラビア語:Hassom
赴任中もっとも数多く釣り、数多く寿司を握った魚でしょう。 海岸で子供にも釣れます。
こんな小型の種はマーケットには出ていませんから、自分でゲットするよりしかたありません。 アラブ料理に食べ飽きた日本から来るお客の接待にはこの握り寿司が最高のおもてなしでした。


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画像モンゴウイカ
25cm(甲の長さ) 1.5kg
学名:Sepiaspp
英語 : Ink Fish
アラビア語: Khathag

3月、モンゴウイカは産卵のため海岸に押し寄せてきます。 漁期はは4月末までですから、この時期に獲って冷凍にしておきます。 これがなければ当地では煮物、中華 フライなどうまい料理が食べられません。 食材として貴重品です。 スシネタとしても抜群! 駐在員の家庭の食材として財産とも言えましょう。


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 このほか、ヒオウギというさんご礁に住む帆立貝の仲間を潜って獲ったり、魚屋からはエビなどネタを仕入れました。うには海の中にごろごろいるので、試したところ中はドンガラでがっかりでした。

  こんな豊富なネタが揃ったアラビアの寿司処 「らくだ鮨」 会社の従業員とその家族たちなど多くのお客(実はサクラ)が詰めかけます。 ここの板前サンは一貫づつしか握りを出しません。 二貫を出すと左右の大きさの違いがバレてしまうからです。

 不味そうな顔をしたお客には、サビの倍返しだ。参ったか!

 日本で食べる寿司は美味しいですネエ~。しかし、温暖化による海水温度の上昇で、日本近海には熱帯性の魚類が見られるようになりました。すると、将来日本の魚ははほとんどがアラビアと同じ種類になってしまうのでしょうか?「らくだ寿司」の出番かな。


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 祝 開店 らくだ鮨

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