口に食べ物を与えよ、目は遠慮するだろうから ー実際に見たアラブの格言
アラブの家庭の食事に招かれると、その席にはかならず初対面の人も招かれています。まず挨拶から始まって、紅茶を飲んだり、炒ったかぼちゃの種やデーツを齧りながらおしゃべりを楽しみます。食事まで相当な時間がある上、話は多岐にわたりますから訪問する時はあらかじめ自分のしゃべる話題を考えておく事も必要です。黙ったままでは失礼にあたります。アラビア語を話せなくとも、英語なら大概理解してもらえます。
今日招かれたお客は例によって男性だけです。 私たちは男性用の一室に通されました。
ここサウジアラビアではイスラームの掟にしたがって奥さんや年頃の娘さんの姿を見ることが出来きません。ご主人から「私の家族だ」と紹介されるのは、息子さんや ボシ-ヤ(ベール)をかぶる年に達していない幼い娘さんだけです。だから、アラブの住宅では複数の男女別の居間があるのが普通です。
息子さんの一人(長男)はこのお客さんたちの会話のあいだ部屋の隅に控えています。 たえずお客に気を配っていてお茶が飲み干されるとすかさず注いでくれます。 グラスの底に溜まった砂糖はかき回してはなりません。 次に注がれた時に程よい甘さになりますから。
右手に持ったグラス(あるいはカップ)を左右に振れば、もう結構という合図になります。
ちなみに、この場合は1杯、3杯の奇数の時が礼儀だと言われていますが、あるアラブの友人は「そんな事ないよ、好きな時でいいんだよ」と笑っていました。でも、私は帰任までこのルールを守っていましたが・・・。
長々とした会話のあと、ご主人は台所の奥さんに呼ばれます。
「アブダラー!これを持っていって頂戴!」
さて、奥さんの手料理を持ってご主人が現れます。何回も台所に往復して居間の床のじゅうたんに広げられたビニールシートに当地のカプサとよばれるヒツジの煮込みやサラダなどいくつもの料理が並べられます。その量の多いこと。ご主人はどんどん食べてくれと奨めます。
アラブのお客は鳥の骨など食べ物の残骸をポイっとビニールのシートの上に捨てています。私は初めはお皿の脇にティッシュ・ペーパーに包んで目立たないように置いていましたが、 ご主人はもっと食べてくれとドバッと皿に料理を盛り付けてくれます。 残骸を目に見えるところに置くのは、美味いからこんなに沢山食べているという目印なのです。
口に食べ物を与えよ、目は遠慮するだろうから
お客には十分なもてなしを、 というのがアラブの格言です。
胃が顔を出せば心は立ち去る
も別の格言です。どんな教養のある人でも腹が減ったら胃袋はGu~と鳴るでしょう。 ここでは武士は食わねど高楊枝、なんて言葉は通用しません。胃袋の小さい日本人には苦痛かもしれませんが、奥さんの心尽くしの料理を沢山食べるのが礼儀と言えましょう。
食べ終わったら、アラビックコーヒーが振舞われますが、そのあとすぐお暇しましょう。(次の居間に案内される事もあります)
なぜなら、この料理は私たち客人だけのものではありません。次に家族、そのあと使用人たちの食事なのですから、みなが待っています。 十分すぎる量の料理はそのためです。
私たちは帰り際にはよく「奥さんは料理が上手ですね」という言葉を口にします。だが、アラブ社会では、この意味を「こんな料理の上手な奥さんを私に下さい」と言う意味に取り違えられかねません。 したがって、この場合には
「美味しい料理に大変満足しました」 にとどめましょう。
また「奥さんによろしく」ではなく、「ご家族によろしく」と言ってください。
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