砂漠のゴルフ・・・オールバンカーのコースかと、お思いでしょうが

およそ地球上にゴルフ場がある処に日本人あり、と言ってもおかしくありません。世界でこんなゴルフ好きな人種はいないのではないかと思います。たしかにリラックスしますよ、このスポーツは。仕事好きの我らにとって心の拠りどころです。 さて、ここはサウジアラビアの石油基地、灼熱の太陽と砂漠のほかには何も娯楽はありません。毎日の単調な辛い仕事が続くとやりきれません。そうだ、ゴルフをやろうじゃないか! ここで働く男たちは自分でゴルフコースを作ってしまいました。

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 1962年、サウジアラビア東部のアル・カフジにある日系石油会社。ここで働く日本人たちは休日を利用し総出で郊外の砂漠にプライベートの9ホールズのコースを作り上げました。見渡す限りの砂、砂、何もないところに廃油をまいて固めたフェアウェイ、なんと土手や池やバンカーまであります。2年後には18ホールズが完成しました。
誰の土地かわからないので立ち退かされるのを心配して、毎年のラマダン(断食月)明けの祝日にはその地域の長老に羊を10頭ほど贈ったそうです。後年、私もそこでプレーする機会を得ましたが、せっかくのナイスショットしたボールをベドウィンの羊飼いが親切にも持ってきてくれました。 お礼を言って良いものやら・・・のどかなコースでした。

                 

 1971年になって、会社の敷地内にゴルフコースが移され、厚生施設として新たに18ホールズが完成しました。 このコースは後年に若干の改造がありましたが2000年の石油利権が終了するまで、赴任した多くの日本人従業員の憩いの場となったのです。

 18ホールズ 6,458ヤード パー72の海岸沿いのこのコースはクラブハウスや打ち離しの練習場も整備されています。 レッスンプロを日本から呼びよせて、指導を受けた事もありました。
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 このカフジ・ゴルフクラブは当地の気候が穏やかになる10月から3月までのシーズンに月例トーナメント、カフジマスターズなどのコンペが開催され、従業員の家族を含め多くのプレイヤーが参加しています。 また、近隣の石油会社を招待して行う親善コンペでは、プロ級の腕前の人も多く国際トーナメントに出場しているような気分です。
 これにも飽き足らず、若い人たちは真夏の45℃の暑さを物ともせずに会社が引けたあとや休日にプレーするので、熱中症を心配した日本人医師から、水を沢山飲むように注意されていました。

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 フェアウェイは廃油で固めてあります。 ゴロショットでも遠くまで転がっていく反面、ナイスショットが風で吹き寄せられた砂だまりに捕まってガッカリの場面もあります。写真の手前は浅いバンカーです。(普段は細かい砂が敷き詰められています) 広いコースですが、勿論、OB杭も、ウオーターハザードに見立てたくぼ地も造ってあります。
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 フェアウェイからのショットはその位置からグリーンマットを敷いて打ちます。マットを落としたのに気がついて、あわててワンホールを戻ることも・・・。 ただ、日本のコースのように混んでいませんから、うしろの組の人に怒られることはありません。
 使用ボールは赤やオレンジのカラーボール、白い砂漠の中で目立ちます。もっとも、日本でプレーする時に感が狂うからと腕の良い人たちは、薄い黄色や白いボールを使っていました。



   夕暮れ時、 真っ赤な太陽が地平線に沈んでゆきます。遠くのモスクから聞こえるアザーン(お祈り)の声を聞きながらボールを飛ばす気分は格別です。
画像 ラフは6インチのリプレース可、ボールを肩の位置から落とします。下の岩に跳ね返ってもっと条件が悪くなる事もあるので、注意が必要です。 ここはマットは使えません。
 砂漠に住むオオトカゲの穴があちこちにあります。ローカル・ルールではここにボールが入ったらノーペナルティ。 春には花が咲き乱れロストボールになることがしばしばあります。 また、この時期、毒ヘビも居ることがありますので、注意が必要です。 まずアイアンで周囲の藪をたたいて安全を確認します。サソリやヘビをアイアンで退治したこともありました。 ある時、えらく耳の長い茶色のウサギがコースを横切って行くのを目撃しました。

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 砂漠のゴルフコースはグリーンならぬブラウン。ゴルフ用語に従って我々はグリーンと呼んでいます。ここは発電所からでる廃棄潤滑油と粒子の粗い砂をまぜて、ふわふわの芝の感じを出しています。この感触を保つために1週間に一度のメインテナンスが必要です。

 グリーンにボールがオンすると、レーキできれいに掃いて、前の人の足跡とボールの道筋跡を消します。

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 ホールによって、球筋が速いところと遅いところがあり、3パットを連続して叩いてしまう事もしばしばでした。面倒くさがらず、 レーキでしっかりと均しておくのもスコアを上げる秘訣です。

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 海沿いのコースは8番と9番ホール。私が一番好きなコースでした。(写真は8番) 9番は右にドッグレッグしていて、1打目を飛ばしすぎるとフェアウェーを突き抜けて海岸までいってしまいます。 このホールは1年中ほとんどがフォローの風ですから、うまい位置にのせると2打目はグリーンまで。 清々しい気分となります。気がゆるんでしまうのかバーディはありませんでした。

                

 カフジ・ゴルフクラブのほかプライベートのボヘミアン・ゴルフクラブというグループがありました。初心者、ヘボゴルファーの集まりです。 名のとおり、球を追って砂漠を放浪する団体です。ワンラウンド100のスコアを切れない私は何年もこのクラブの会長を務めさせられていました。プレー時間がかかりすぎるので、月例コンペはハーフ・ラウンドです。

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 大会後、夕食時の日本人食堂では「今日のスコアは76だった」「俺は78だよ」そんな会話が飛び交いますと、そばのシングルハンディキャップ・プレーヤーはギョッとした顔で振り返ります。ハーフ・ラウンドとは思いませんからね。それでも賞品の豪華さは当地きってのコンペですから楽しいグループでした。
 中で「お助けヒモ大会」は記憶に残るコンペでした。ハンディキャップに応じ、最大15メートルのヒモが渡されます。 ちょっとOBした時、バンカー入りした時にセーフにしたり、長いパットの時に必要なだけ切って使うわけです。それでも良いスコアを出した人はいなかったので砂漠の放浪者ボヘミアンゴルファーの名を辱しめずにすみました。(いいわけですかねえ・・・)
 このコンペで連続2回40台のスコアを出すとボヘミアンクラブは卒業です。こうしてゴルフ初心者は腕を磨いて次のステップのカフジ・ゴルフクラブの月例杯に望むわけです。
 利権終了後あれから12年、サウジ国営会社となったいま、ゴルフ場はどうなっっているのか・・・グーグルアースで検索してみました。上空から見るといくつかのホールは消えうせて新しい道路が建設されています。もう、プレイする人もなく荒れるにまかせているようです。
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 私たちが競ったサウジの名門コースの一つといわれたカフジゴルフ・コースは、もはや思い出だけの存在だけになってしまったのでしょうか。


 参考資料: カフジのゴルフ場-過酷な自然の中に憩いを求めてー
                          坂元宏明氏 (中東経済を解剖する HP)

        私の好きなホール嫌いなホール
                          上西英之氏(アラビア石油広報誌)                                          

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