舌を滑らすより足を滑らすほうが痛みは少ないー実際に見たアラブの格言

 言はアラブのものというより、いまは日本の政治家に献上したいものと言ったほうがよさそうです。 不用意な失言は一生付きまといますが、滑って転んで怪我をしてもすぐ直りますから。だが、転ぶのが嫌だと思っている昨今の永田町や霞ヶ関の御仁たちには残念ながらこの格言は「馬の耳に念仏」かもしれません。

 アラブ人は議論好きです。こうした論争の中ではたびたび人の悪口が言われますがその理由をとうとうと述べて相手を納得させるまで続きます。根拠がない人を貶めるような発言は徹底して非難されてしまうので、発言にはかならずその理由を(屁理屈でさえも)示します。

 その中にはかならずと言ってよいほど、比喩(たとえ)が登場します。 先の沖縄における某お役人のようなひどい喩えではなく、昔から世間一般に言われているものやコーランの言葉を引用して自分の言い分を飾り立てています。 だから、失言はほとんど表に出ないのでしょう。

 私が当地で聞いた格言は
舌を滑らすより足を滑らすほうが痛みは少ない

 なるほど、わたしにも身に覚えがありますよ。不用意な発言で人を傷つけてしまって、後から反省しても、もう修復のすべはなく今でも思い出しては悔やんでいます。逆に転んで怪我をしたことなどは全部忘れ去っています。私はこの喩えが気に入って、アラビアで在任中に部下が仲間の悪口を言い過ぎると、これを使って諌めたこともありました。

 一方、アラビアでは誰が言ったか判らないうわさ話が横行します。そのため、誤解が誤解をまねき人違いの殺人事件まで起ったことがありました。うわさを広めた張本人はきっと後悔しているにちがいありません。それを諌めるこんな格言もあります。
舌を野放しにしておく者はあとで後悔する                            

 この喩えはわが国の白亜の殿堂の中ではまったく通用しないようです。TVや新聞で見る限り舌禍の張本人は後悔するどころか舌を野放しにし放題、反省の色もみせず椅子にしがみついています。そのため重要な法案の審議は後回し、これでわが国の政治は成り立っていくのでしょうか?

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