金のない男は病人と同じ、皆逃げてゆくー実際に見たアラブの格言
アラブのスーク〔市場〕の一角にはかならず金細工の店が軒を連ねています。かつて私が勤務していたサウディ・アラビアでもその例にもれません。アバーヤ姿の女性たちが群がって品定めしている様子がいつも見られました。女性は多くの金細工を身に着けています。歩くたびに黒いアバーヤ姿の下では重い金細工が音をたてています。
これらの金細工は14金や18金では価値が低く、限りなく純金に近いものほど良いのです。壊れやすいが心配ご無用。お店は金の目方で壊れた腕輪や、ネックレスなども引き取ってくれます。すなわち、金細工はアラブでは女性が離婚した時に十分暮らせる財産となるものですから、あればあるほど良いのです。妻に沢山買ってくれる亭主ほど頼もしいと言えましょう。金のない男は病人(疫病)と同じ、皆逃げてゆく
アラブにはこんな格言があります。中東の厳しい砂漠の環境の中で暮らしてゆくためには、稼ぎの良い頼もしい男が必要です。大きな車に何人もの妻をのせ買い物に来るご主人は、皆に平等にしなくてはならないからその出費は大変です。
昔の話ですが私が当地を訪れた時は27歳、まだ独身でした。部内の20代前半(であろう)のアラブ人のラディ〔仮名〕が結婚する事になり、お祝いの言葉をかけました。
彼は一生懸命働いて、ようやく羊が100頭買えることが出来たので結婚すると笑顔で答えました。(勿論、親や部族からの援助とオイルマネーが潤沢な政府の福祉政策もありますが・・・)
そして、私にお前さんはいま何人の奥さんがいる?と問いかけてきました。
俺はまだ独身だ、と言いますと、さも気の毒そうにいい年をしてまだ結婚できない?なんとも背骨のしっかりしていない男だ、俺より貧乏なんだなぁと笑われてしまいました。
家族(部族)の援助がない男は、背骨がないも同然である
彼はそう言いたかったのでしょう。
隣にいたイギリス人は、お前さん結婚15年もなるのに子供がたったの一人だけ? と言われ、これもまた困惑顔でした。
ラディは2~3年後には貯金もたまるから、また沢山の羊を買ってもう一人、妻を貰うんだと言っていました。 ちなみにこの羊は妻となる娘の父親の物になる結納金のようなものです。 また、結婚後も妻達に十分な財産を与えねばならないし子供も多いので、アラブの甲斐性ある男になるためには大変な努力が必要なのです。 アラブの格言には
歯痛のような苦しみはない。結婚のような難儀はない
と、ありますからその後のラディは相当な苦労を強いられていたのかも知れませんね。
その後、1976年に私は妻と2人の子供を帯同して現地に赴任しました。 その時、ラディは既に3人の妻と11人の子福者になっていました。私が冗談で 「サッカーチームができるね」 と言いますと彼は「このうちの5人は娘なんでね」と笑っていました。
1991年の湾岸戦のあと私は再赴任(この時は単身)し、7年後本社に帰任する時はラディはなんと34人の子供と4人の奥さんの大所帯でした。現在、会社をリタイヤした彼は大家族に囲まれた部族の大長老となっていることでしょう。
誤解のないように申しあげますと、西欧諸国で教育をうけたアラブの人たちや一般の市民の多くは奥さんは一人というのが通常の姿です。 サウジの女性の権利意識も高まってきている現在ですが、ラディの場合は伝統的な一例です。
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