知り合いがいない所に行ったら何をしても構わないー実際に見たアラブの格言

  私たちは旅行の際には何かウキウキした気分になって、つい羽目をはずすことがしばしばあります。すなわち、旅の恥はかき捨てというわけです。アラブ社会でも、国外に出た場合にこういうことをする旅人が多いようです。自国では禁止されている厳しいイスラムの戒律をロンドンやパリの街角では守らない人を見受け、本当にいいのかなと思ってしまいます。


 アラブでは
「知り会いが誰もいない所に行ったら何をしても構わない」
という格言があります。

 イスラムの戒律の厳しい国では女性たちは外出する時には黒いアバーヤとよばれる衣装を身にまとい、ボシ-ヤ(ベール)をかぶらなくてはなりません。夫や親兄弟以外には顔を見せません。たまにスーパーマーケットや装飾店でベールをあげて品定めをしているご婦人もいますが、 その際、私たち男性は顔をそむけて見ないようにするのが礼儀です。シリア、イラクなどでは彼女たちの多くはベールはかぶっていませんが、かならずスカーフを着用し耳とうなじを隠しています。 

 私が仕事で暮らしていたサウジアラビアでは会社側から在留邦人の女性の服装について家の外に出る際の厳重なお達しが出ていました。

 ・ ノースリーブ、半袖のブラウスはやめて長袖とすること
 ・ 体の線が露わになるパンタロンやショートパンツ、ミニスカートなど青少年を刺激するものの着用は避けること
 ・ 会社のエリアを離れて外出する時は、少なくとも膝下10センチのスカートを着用し、スカーフまたは幅広の帽子をかぶること

 おしゃれな日本のご婦人がたには大変辛い思いであったろうと思いましたが、1991年の湾岸戦の後、多国籍軍の女性兵士の立ち振る舞いや露出度の高い服装が一般のひんしゅくを買い、イスラムの戒律は一層厳しくなり外国人女性に対しても、外出の際には黒ずくめのアバーヤとスカーフの着用が義務付けられました。
  
  

 私たちに比べ毎日の生活で戒律を守らなくてはならないアラブのご婦人たちがヨーロッパなど外国に行く時には、やはりワクワクした気分はおさえられないと思います。

 外国旅行の際、国内の空港では彼女たちの服装は普段と変わらない黒づくめの姿ですが、飛行機が飛び立ってから1時間してイスラム圏を通過するとアバーヤ姿の彼女たちは我先にトイレに行きます。そこから出てくる人はどれもこれも、最新流行のパリやイタリアモードに身を固めた美しいご婦人方です。

 これを見て、イスラム社会に住む私はかえってどぎまぎしてしまい「顔をさらすのは恥なり」という掟に反してもよいのかと心配してしまいます。隣の座席の夫であろう男性が涼しい顔をしているので、納得するのですが…。

 これは、私たちの間でいわれる「旅の恥はかき捨て」あるいは「郷に入らば郷にしたがえ」を実践しているのですね。

 もっと凄いアラブの格言では「誰も知らない国へ行ったら、(道で)着物の裾をあげて必要を満たせ」とありますが、さすがに誰もする人はいないでしょう。
                      
 一方、パリやロンドンなどの国際都市では、戒律を守りアバーヤ姿のご婦人もいます。アザーンの時間がくると空港や公園の片隅で、同じくアラビアの民族衣装(ディスダーシャ)を着た夫と共にマッカ(メッカ)にむかってお祈りを捧げている姿も見受けられました。 指さして笑っている人もいましたが、日々の戒律を守っている人たちの姿を見て、その信仰の深さになんとなく清々しい気持ちになりました。

 最近、フランスでは女性の権利を損なう、という理由で、イスラムのご婦人の「ブルカ(ベール)」の公共での着用が法律で規制されるようになりましたが、 一方、戒律の厳しいイスラム諸国では先に述べたように、外国人女性でも公共の場ではアバーヤとスカーフを着用しなくてはならないのです。 

 各国それぞれの理由がありますが、今後、論議を呼びそうなことですね。

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