砂漠の悲劇の多くはおしゃべりの口から生まれるー実際に見たアラブの格言
ある日の朝、私の部のアラブ人スタッフが集まってなにやらひそひそ話をしていました。仕事の手を休めてさぼっているな、あとで注意してやろうと私は自分の部屋で執務をしていたところ一人の部下がやってきました。彼は悲しげな顔でしゃべりはじめました。
昨日、彼の知人の自動車修理工が殺されたというのです。 そこで、その男の残された家族のために寄付をお願いしたいというものでした。 修理工は私も知っている男で、何度も車の故障を直してもらった腕の良いメカニックだったのでびっくりしました。 とりあえず、手持ちの現金をその男に渡してほかに何かできることがあれば、と言い添え、なぜそんな事が起ったのかそのわけを聞きました。ことの発端は、ある男の妻の容貌が不器量だとのうわさ話でした。当地は厳格なイスラム社会、女性はベールで顔を隠していて夫や家族以外に見せることはしません。 誰かがそっと見たとなれば夫にとっては大変な侮辱です。それがうわさ話となって世間に広まる事は男一生の恥辱となります。しかも容貌のことともなれば激怒するのは当たり前、そこで、うわさを広めた(であろう)修理工をピストルで撃ってしまったわけです。男はこれが妻の名誉を回復したピストルだと、それを持って警察に出頭したわけです。
砂漠の悲劇の多くはおしゃべりの口から生まれる
アラブではこのような格言があります。だが、いつものことながら事実はどうなのか、うわさ話だけを聞いている限りでは真実はわかりません、当地での本当の話は千に三つといわれています。
警察の調べでは撃たれた修理工はうわさを広めた張本人ではなく、人違いだったとの事でした。この男は出稼ぎのアラブの修理工、この国ではお客の悪口などをいえば職を失ってしまうでしょう。しかも車の修理工場にはかならず男性が運転して持って行きますから奥さんの顔を見る機会はありえません。
実際、後になってから話には尾ひれがついて様々な憶測が広まりました。本当はアイツが言ったらしい・・いやコイツに違いないと疑われた人はとんだ迷惑をこうむる事になりました。しかし、藪の中、どこの誰がうわさ話の発端であったかわかりませんでした。
舌を野放しにしておく者はあとで後悔する
この格言どおり、うわさを広めた張本人は自分の舌のおかげで犠牲者が出るまで事が大きくなってしまい、悔やんでいるに違いありません。
当地では妻の名誉を守ったという動機は裁判では情状酌量の余地があると聞いていますが、人違いでは重罪に値します。 男は殺人罪で刑に服しましたが、その後彼がどうなったか、そのうわさ話を聞くことはありませんでした。
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