我が家にあった謎の幕末写真
お彼岸が過ぎ、仏壇の掃除をかねて祖父たちの写真の整理をしていると思いがけない写真が出てきました。 和紙に包まれたそれは幕末の武士達の写真のコピーです。 私が小さい頃、父から「これは俺の母の父親だから、お前のひい爺さんだ」 と聞かされていたことを思い出しました。しかし、どの人物が曾祖父なのか憶えていません。親戚から貰ったというだけですから果たして本物の曾祖父なのか定かではありませんが・・・。
仏壇に入っていたから父は大事にしていたにちがいありません。そこで、曾祖父の写真であることを鵜呑みにして、幕末のこの写真の謎を探ってみる事にしました。
この写真の背景を見ると、ガラス窓にはカーテン、壁の洋風の飾り模様、また、武士達が座っているのはじゅうたんです。当時は珍しかった洋館ですから長崎かも知れません。
もしかして、この武士達は藩命で長崎に武器を買いつけに来たのでしょうか?すると中央の外人サンは武器商人なのでしょう。有名なグラバー氏かと思って彼の若き頃の写真を見比べて見ましたがちょっと違うようです。
わが曾祖父が禄を食んでいた藩は保守的でいわゆる勤皇の志士を輩出していません。しかし、遅ればせながら戊辰戦争には官軍に味方して曾祖父たちは幕軍を攻めていますから、長崎まで武器調達に出向き、その際に撮った写真だったという理屈は通ります。藩の手持ちの火縄銃では戦争は出来ませんからね。 左の人物の持っている書類はその時の契約書なのでしょうか。
長い露出時間をかけても、ぶれずに鮮明に写っているところを見ると、撮影者は当時の写真家の一人者である上野彦馬氏かもしれません。
上野竜馬氏は坂本龍馬や高杉晋作ら幕末の志士たちや明治の高官の肖像写真を数多く残したわが国の写真家の先駆者です。 天保9年(1838年)に生まれ、安政5年(1858年)オランダ軍医のポンペ博士の医学伝習所の舎密試験所で化学を学び、写真技術を会得しました。
文久2年(1862年)に長崎で写真館を開設しました。有名なものの一つにフルベッキ写真があります。 そこにはフルベッキ教授を真ん中にして幕末の志士やのちの明治の高官の若きころの肖像が写っています。
フルベッキ写真の概要: Guido Verbeck (グイド・フルベッキ)
撮影年 1868年
出典 http//www.nextfip.com/tamailab/verbeck.him
撮影者 上野竜馬
私の手元の写真の人物と見比べてみましたが、この中には登場していないようです。だが、お侍サンはどの人も精悍で似たような容貌ですね。
子孫がこんなことを言うのはご先祖に申し訳ないのですが、また、疑問がわいてきました。
まず、曾祖父といわれる写真の武士たちは「武士の魂」である刀を差していません。大刀はともかくも、小刀までもない丸腰です。 ほかの幕末の武士たちの写真は坂本龍馬や高杉晋作のポートレートあるいはフルベッキの集合写真をみても、誇らしげに刀を持っています。 だから、武士が簡単に腰刀を手放すことは考えられません。
と、いうことは、私が持っているこの写真は明治4年に出された士族の帯刀散髪は自由とする「散髪脱刀令」の後に撮影されたものだったのでしょうか。 左の後ろの人物は当時のしゃれたマントを着ています。 また、その前の人はザンギリ頭のようです。 廃刀令は明治9年ですからその頃ではもうこの風体は古めかし過ぎる感があります。
と、すると、背景の洋館は幕末の長崎ではなく、時代を下って、明治初頭の神戸か横浜、あるいは東京の築地の外人居留地だった可能性もあります。 そうすると、この外国人は英語教師か招聘された技師でしょうか。残る手がかりは背景の洋館が現存しているか、写真が残っているかを調べるしかありません。
原版も、証拠となるような書付けも無い今は、いつ、どこで、また、どういう目的でこの写真を撮ったのか推測の域をでません。 でも、我が家にも幕末のロマンがあってもよい、と思います。
私はこの写真に書き上げたばかりのこのブログのコピーをそえて仏壇の中に仕舞いました。 息子たちには「これは君達の先祖の写真だ、私のひい爺さんだと言うつもりです。 将来、彼らもそうするでしょう。
追伸:
武士(らしき)方たちの着物がみんな左前になっていますので
普段の状態でそのまま撮影したものと思われます。
試しに画像を左右反転してみてください。
それが実際の配置だと思います。
中央の人物は帯刀しているように見えますし
マントの人物もそのしわの形から刀が下にありそうな感じがします。
前の立て膝の二人も角度的に柄が隠れている可能性はあるので
一概に幕末ではないとも言い切れないと思います。
幕末の写真でも撮影時はあえて左前に着付けして
写ったときに通常に見えるようにしていたとのことですから
あるいはもっと古い可能性もあるかもしれませんね
あくまで憶測で申し訳ありません。