物の値段は交渉できめるべきであるー実際に見たアラブの格言

 アラビアの市場(スーク)の喧騒は築地のそれと変わりません。売り手と買い手とのやりとりは、あらゆる理屈をならべたて大袈裟な身振りを交え、まるで喧嘩をしているようです。しかし、彼らは駆け引きを楽しんでいるのです。たとえ値段の折り合いがつかなくとも、十分楽しんだ後だからあとくされはありません。そういう日常の生活の一部を見ると我ら日本人には奇異な感じを受けます。


 アラブの格言では

「物の値段は交渉できめるべきである」

 と、いわれています。

 私たち日本人は大体値切ることはせず、正札どおりのお金を払うのが普通です。生き馬の目を抜くといわれる関西の商売人はともかくも、アメ横などは最初から「1000エンだよ~」と値下げを連呼しています。これを300円にしろとの声はありません。

 私は値切るのが下手でスークでは3割引きがせいぜいです。当地では買値の相場は売り手の言い値の半分だそうです。 

 ある時、部内で子羊の丸焼きパーティをしようと提案し砂漠の羊マーケットに(生きた)子羊2頭を買いに行きました。どうも心配だと、見かねた私の部下がついてきてくれます。

 私は売り手の言い値の70%引きで交渉を開始します。大きな額の取引ですから懸命なやり取りのあと40%のディスカウントで手を打とうとすると、部下のアラブ人は「ダメだダメだ!」と口を出してきて、それからまた延々と交渉が続きます。せっかちな私が「もうそれでいいよ」といっても彼は聞きません。 

 いやぁ~すごいですねえ、50%引き近くになりましたよ。帰り際に「あんな喧嘩腰で、売り手は気を悪くしていないか」と聞きますと、「時間があればもっと値切れたのに、あれじゃあ、奴は儲かったと喜んでいるよ」という返事でした。

 私の妻はここでアラブの商談の経験を積んで値切り上手になり、先年モロッコに旅行した時も大幅な値切りに成功しました。観光客とみくびっていた店の主人が「あんた方、何モンだい?本当に日本人かい?」とびっくりしていました。東京の秋葉原でもその特技を披露していました。 う~ん、見事!

 東京の本社へ帰任したある時、中東のさる国のVIP夫妻が来日し、私はその接遇をおおせつかりました。

 京都ではご夫人は大量の買い物をして店員が包装を終えた時、ご夫人からもっと値切ってくれと要求が出されました。しかたないので店員にその旨を言いますと予想したとうり、No!の返事が返ってきました。 ご夫人はじゃあ、いらないと帰るふりをします。アラブのマーケットではこれは普通のポーズで、店員はコーラなんかを出して「一寸待ってくれ」と引きとめ、また値段交渉が始まります。

 日本の店員はそんな事情は知りませんから、怒ってせっかく包んだ包装紙をビリビリ破き始めまました。びっくりしたのはアラブのご夫妻です。

 これはまずいと、とっさに店員にはアラブの風習を説明し、ご夫妻には今日はこの店は特売日です。ご覧のとおり従業員の数が少ないので初めから値引き価格を付けてあり、彼らにはこれ以上の値引きの権限は与えられていない。と屁理屈をこねて納得してもらいました。

 荷物をかかえて店を出てゆく我々の背後で、「けったいなお人やなぁ」という声が聞こえ、ガックリしました。この言葉を聞いて日本語を知らないご夫妻はアラブと同じ「またどうぞ!」と言われたと思っていることでしょう。

 ちなみに、世界でもっともえげつないといわれる商人は順番に、レバ(レバノン人)、シリ(シリア人)、ユダ(ユダヤ人)、チュウ(中国人)だと中東勤務の日本の商社マンが言っていました。近江商人、大阪商人のランクは多分、ずーと下に位置しているのではないかと想像されます。そういえば、ニッサンのゴーンさんはレバノン系ですね、日本人ではどうしようもなかった会社を見事に立て直しました。

 この頃はグローバルな商取引が盛んです。自国の商品の売り込みにその国の政府のトップがセールスしています。交渉のへたな日本は大丈夫かな・・・。 理想ばかりならべ立てないで、まずはアグレッシブ(えげつなく)に事を運んでください。

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