明日の用意は明日やれば良い-実際に見たアラブの格言
以前、アラビアのIBMという言葉が中東で勤務している日本人駐在員に流行っていました。
インシャラーの I (神のお召しのままに) ボクラの B (明日また) マーリシュの M (気にするな) です。そろそろ仕事が終わったかと見に行くと全然進んでいません。何時仕上がるのだ、と言うと 「ボクラ:明日だ」 明日には出来上がるのだね、と念を押すと「インシャラー:神様のお召しのままに」 無責任じゃないかと怒り出すと、 「明日のことは明日考えれば良いのだ、マーリッシュ:気にするな」こんな事を言われて、せっかちな日本人は唖然、呆然、憮然 の面持ちです。どうしたの?と当然顔の相手。 かわずの顔に・・・なんとやら・・・。これが毎日続くと気の弱い日本人はノイローゼ気味となってしまいます。
私が現地に赴任していた時ですが、アラブ人の上役に5ヵ年事業計画書を提出しました。彼はパラパラめくっただけで、「そんな遠い未来の話なんか細かくきめてもどうせ変わってしまうものだ、日本人は何故そんな事にこだわるのだ?」と不思議そうな顔をしていました。
アラブの格言では
「明日の用意は明日やれば良い」
「明日できる事を今日やる奴はバカだ」
「心配事は起った時に考えろ」
すなわち、物事はどうせ変わってしまうのだから今やっても無駄だ、明日になってそれが起った時にやれば良い・・・というのが一般的な考え方のようです。 一見無責任のようですが、これは彼らがこの厳しい環境の砂漠の中で培ってきた「無意味な事はやらない」という生活律なのでしょう。 将来を、こと細かく考えないと生きては行けない日本人とはまるで違います。
私が永年アラブ世界で仕事をやっていけたのは、このアラブのIBMの素質が備わっていたからだと思います。
そんなことですから、配置換えになったアラブの役職者は私の見る限りでは、後任者に業務の引継ぎをしないで去っていきます。
アラブの友人が昇進して、別の部署の部長となりました。私が挨拶方々、彼の新しいオフィスを訪ね前の仕事の引継ぎはすんだのかと問いますと、
「それはもう私の仕事ではない。用があるなら明日そいつに言ってくれ」
と、にべもない返事でした。今日まで自分がやってきた仕事は自分だけのもの、明日になれば新しい役職者が彼なりの仕事を進めていきますから、前のことは全く反映されないのです。それでも不思議なことに前と同じように仕事が進んで行くのです。アラブでは斬新な考えはなかなか受け入れられないので、いつも保守的な結果に落ち着くのでしょう。
私が着任した時も、オフィスの椅子に座って一時間もしないうちに、部内のスタッフが入れ替わり立ち代りやってきて、昇格、昇給の要求はもちろん、借金の申し込みまで依頼してきました。
まだ何も引き継いでいないから判らないと当惑顔の私に、さも馬鹿にしたように「あなたは私のボスではないか!」とまくし立てます。このように、引継ぎがなくとも、周りの人間がワイワイ騒いで教えてくれるようですね。
幸いにして、私の場合は前任者が日本人だったので諸案件を引き継いで事無きを得ましたが、ボスが変わったのになんで元の奴がウロウロしているんだとクレームが出ました。 日本では無かった経験でした。「インシャラー、 ボクラ、 マーリッシュ」
その後、何回私がこのアラビアのIBMを使って仕事をこなしてきたか?あまり多くて憶えていません。
さはさりながら・・・明日には何が起るかわかりません。私たちにもアラビアと同じ言い回しがあります。
明日には明日の風が吹く・
マーリッシュ(気にするな)、心配事は起った時に考えましょう。今晩はゆっくりとお休み下さい。
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