争いの仲裁人はいつも大損をするー実際に見たアラブの格言
なるほど、この格言は古今東西を問わず、歴史が証明しているのではないでしょうか。いつも仲裁人はどちら側からも恨まれてしまいます。中東和平がなかなか実現しないのも、どの国も嫌がって二の足を踏むからです。やむなく仲裁する場合でも相手に恨まれることがないよう、うやむやにして、これといった手が打てないからだと思います。さて、これは私のアラブ生活での出来事です。
ある日、部下のサード(仮名)が血相をかえて私のオフィスにやってきました。見ると鼻血をだしています。興奮していて、なにを言っているのか分かりませんので別の男を呼んで彼に事情を聞くことにしました。どうも同僚のモハンムド(仮名)と喧嘩したようです。当地ではこうした喧嘩で相手にけがをさせた場合は警察沙汰になるのは日常的な事ですから、さて、どうしたものか・・・困った事になりました。彼をさがらせてモハンムドを呼びつけました。彼もまた目を腫らし、あいつを訴えてやるといきまいています。警察沙汰になれば、二人とも2-3日は拘留され裁判が終わるまで出てこられません。日々の忙しい仕事からこの二人が欠けてしまうのは私にとって容易ならざる出来事です。そこで、やむなく仲裁をする事になりました。双方に証人をつけさせた上で事実確認の調書をとりました。勿論、二人とも相手の非をなじるだけで、どうしようもありません。
さて、このにわか裁判官は、この調書をもとに二人を呼びつけ判決を言い渡しました。
「サード、君は自分の部族を誹謗されたが故にモハンムドを2発なぐった。しかし、この行為は部族の名誉を守るための当然の行為である」
「モハンムド、君はサードから2発なぐられたが、そのうちの1発は彼の部族を侮辱したのだからなぐられて当然である。しかし、サードのもう一発の分は余計であるが故に、君はこの分についてサードにお返しした。これは正当な行為である」
「さて、この喧嘩について、私はどちらにも正当な理由があり非がないと認めるので、君たち二人は握手をし和解することを命じる。君たちも警察につかまって仕事ができなくなるから、その間の給料がもらえないのは困るだろう」
「 ?・・・・・・・・・」「 ?・・・・・・・・・」
分かったのか分からないのか二人はその場で握手をし、アラブ流に肩を抱き合って頬にキスをしました。当然、この場面には二人の証人がいましたから、もう仲違いはできません。でも、私は心配でたまりませんでした。中東では、なまじっかな和平合意はすぐ反古にされてしまうのが常です。また喧嘩が始まれば今度は私自身の権威と人望が失われてしまいます。そこで、世論にアッピールすることにしました。
オフィスボーイを呼びスーパーにペプシコーラ100本を買いに行かせました。それを部内のスタッフ全員に配ったのみならず、余った分はほかの部にもって行かせました。
こりゃどういう訳だ。いぶかるスタッフたちに私はこう説明しました。
「諸君!聞いてほしい、私はあの仲違いした二人が和解したことを大変喜んでいる。この喜びを君たちにも分かち与えたいのだ」
コーラを飲んだ全員をこの件に巻き込んでしまった訳です。体面を重んじるアラブ人たちです。これで、この二人は喧嘩ができなくなりました。
アラブの格言にいわく、
争いの仲裁人はいつも大損をする
喧嘩の仲裁人は拳骨の三分のニを覚悟せよ
コーラだけで済みましたが、やはり仲裁人は損ですね。
日本で裁判員制度が始まりました。 もし、私が裁判員になったら・・・・・うまく事を運べるかどうか心配です。
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