俺の名誉は俺の髯で守る -実際に見たアラブの格言
たしかにアラブの男性は髯を蓄えるのが大好きです。あるアラブ人が東京の理髪店で髯をあたってもらいましたが、髯なんて剃るもんだと思っている日本の床屋さんにあれこれ注文をつけても、うまく手入れが出来ません。 満足する形にならないないので、彼はカンカンに怒ってしまいました。床屋さんには同情しますが、髯には彼の名誉がかかっていますからね。
以前私が赴任していたサウディアラビアでは髯のないヤツは男じゃないと思われているようです。彼らがメッカ(正式にはマッカ)に巡礼に行くと頭をつるつるに剃って帰ってきますが、男の名誉を守る髯はそのままです。
アラビアのオフィスでは髯のない男はいない
中東諸国に赴任した日本人の中には面白がって髯を蓄える人もいますが、すぐ飽きてしまったり手入れが面倒なのでやめてしまうことが多く見られます。しかし、こういう人をアラブの人々は節操のないだらしないヤツだと陰でバカにしているのを知らないのでしょうか。皆がお茶を飲む席では「あいつは何か失敗したらしいぜ、髯を剃っちまったよ」と格好の笑い話にされています。
実は私も赴任早々なけなしの髯を蓄えていましたが、アラブの友人からこの話を聞いて剃るのをやめました。イラクに派遣された自衛隊の隊長が最後まで剃らなかったのは正解でした。彼はイラクの人々から自分たちを理解してくれた人であると尊敬の念をかち得たと伝えられています。
私の母が亡くなり急いで日本に帰ることになりました。 葬式に髯づらで出るのは日本でははばかられるために、剃らざるを得ませんでした。葬儀を終えアラビアに戻るジェット機の中で、つるつるの頬を撫でながらアラブ人たちにバカにされるのを覚悟しました。
事務所に入るやいなや、アラブのスタッフたちは私の両手を握り締め、悲しいだろう、辛かったろうと口々にお悔やみの言葉を言ってくれます。 普通、葬式がすんだ後はアッラーに召され天国に行ったーとあっけらかんとしている彼らがこんなことを言うのは意外でした。 実は彼らは私が悲しみのあまり、男の名誉をまもる大切な髯を亡くなった母に捧げてしまったと思ったからでした。 私がまた、髯を蓄え始めたのはいうまでもありません。
名誉を守る髯の効用はほかにもありました。
ある日、私のアラブ人スタッフの一人が失敗をしでかしました。 単なる書類上のミスだったのですが、彼はあれやこれやの言い訳を言うのみならず、貴方の指示が悪かったからだと言い張りました。 さあ、私もマジ切れ、いきなり彼の髯を引っ張って、このうそつき野郎! お前の髯はニセモンかあ!と怒鳴りつけました。びっくりした彼はすぐに謝りましたが、私の怒りは収まりません。お前の謝罪は心からのものなのか、お前の髯の名誉にかけて誓え、俺の髯が証人だ!と大見得を切ってやりました。
さて、 私の髯のその後はどうなったでしょうか。
数年後、帰任の命を受け日本に帰国した翌日の朝、鏡を見て驚きました。 昨晩、酔っ払って寝ている間に女房が雑草と勘違いしたのか、きれいに刈り取られていました。
アラビアの砂漠はアラビアのらくだで渡れ」 という格言があります。「郷に入らば郷に従え」ですね。
やはり野に置けれんげ草と、会社からまた現地に戻されないように髯のない顔で日本のビジネス界に戻りました。
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