お気に入りの皿ほどよく割れる

 永年愛用していた皿がまた割れました。あと、4枚しか残っていません。ルクセンブルグのメーカーのアカプルコ。 この皿との出会いは、私たち一家が30年前にサウジアラビアに赴任していた時のことです。ここでは、生活の無聊を慰めるため、日本人主婦たちがあつまって毎月マージャン大会を開いていました。 妻もここでマージャンを覚え、大会のブービー賞で貰ってきたのが一枚の皿でした。名前といい、また絵柄もラテン調で、はじめはメキシコ製かと思いました。しかし、よく見るとデザインだけでルクセンブルグ製でした。

 アカプルコの明るく華やかな色彩。これが、当地の日本人主婦に人気があると知ったのは、知人の家の昼食に招かれた時、食卓にこの柄の食器がずらりと並べられているのを見たからです。

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 生活に必要な食器はいくらあってもよい。だから、マージャン大会の賞品として毎回幹事さんはこのメーカーの皿を選んできます。なるほど、この地のどこの日本人家庭にもある理由です。

 「Aさん、Bサンのお宅もアカプルコの食器を揃えていますよ」

 その一言で、我が家も一式をそろえる気になりました。

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 町の食器店にはこの色鮮やかな柄の食器が並べられています。 その中から、ポット、深皿、両脇に取っ手の付いたスープカップ、それに、マージャン大会で妻がもらった同じ皿を買い足し、6人分のセットを揃えました。

 お客を招いても招かれても、どこでもお馴染みの皿が出てきます。 だから、テーブルを囲んでアット・ホームの気分になれるから不思議です。 東京から持ってきた、わたし達の結婚のお祝いにもらったノリタケのディナーセットは戸棚に仕舞われたままになってしまいました。

 食器はやはり割れてしまうものです。その都度、妻は同じものを買い足していました。 1970年の終わりの頃のことでした。

 地味な柄の皿の多い日本の食卓では派手すぎるかな、と思いましたが、東京に帰任してからも、我家ではこのアカプルコの皿は朝食のために使われてます。 毎日、花と鳥のデザインが目を楽しませてくれます。

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 時にはこの華やかな皿には夜食がラップをかけられ、残業で遅くなった私を待っていました。

 あれから30年、我が家のアカプルコの食器は年が経つごとに少しずつ姿を消していきました。

 2008年、ティーポット、深皿、サラダボールそれに4枚の皿、これだけが今残っているアカプルコの食器です。 
 
 息子たちも独立した今、わたし達夫婦が使う分だけになりました。

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