アラビア湾の釣り具事情
私の息子は大の釣りファンです。かく言う私も10年前までは、勤務先の中東のペルシャ湾(アラビア湾)で休日には釣りを楽しんだものです。しかし、日本では朝早いのが苦手でもう釣りは止めてしまいました。釣りに熱中している彼を見ていると懐かしさもあり、私の永年親しんだアラビアの釣りをご紹介します。
さて、息子は天候が許せば毎週のように、夜中から車で出かけています。(まあ、よくお金が続くと感心していますが、自分で稼いでいるので文句はいえません) タイだ、イナダだ、ムツだ、カレイだ、と、いろいろな魚を釣ってきてくれるので、我が家にとって有難いのですが。
彼の部屋は釣道具で一杯。竿も20本はあると思います。それに大小のリールの類。どれもこれもが、ウン万円する代物です。新製品がでると、また買ってしまうらしいのでどんどん増えるようです。日本の魚はセレブの釣具が好きなんですかねえ。
或る時、私は見かねて
「俺がアラビアから持って帰った釣道具があるだろう」
と言ったところ、
「古い古い、あんなものは博物館入りだよ」
と澄ましています。 そして、釣れるかどうかわからない魚を期待して電動や液晶パネルがついた高価なリールを磨いています。中には見ても何に使うか分からないハイテク釣具もあります。 年々、モデルチェンジするのでしょうから、その時古い釣具はどうするのでしょうか。
――――――――――――
アラビア現地のスポーツショップでは釣具はろくなものがありまれせん。したがって、赴任時に日本から引っ越し荷物に入れて送るか、休暇の時に買ってくるか、のいずれかです。
私が現地で使っていたものは、数千円の竿やリール、休暇の折に、アラブの友人の分をふくめ、同じ製品を纏め買いします。現地では壊れても修理が出来ないから、壊れたものは分解して部品を取っておくのです。
竿も同じ、ペルシャ湾(アラビア湾)の大魚とやりとりすれば、穂先は勿論のこと、根本の部分も折られることがしばしばです。だから、釣具は数種類に標準化するのが得策です。
だが、同じところがよく壊れます。 これも帰国した際にその部品を買いだめしておきます。
あるアラビア人は釣りカタログをみて、プロが使うような高性能のリールを日本人にたのんで買ってきてもらったのですが、過酷な大物釣りで一年もたたないうちにドラグナットが飛んでしまい、ギヤーも壊れて動かなくなってしまいました。
懐かしいダイワMax-9000 日本人が帰任の際、
アラブの釣り人は是非譲ってくれと、電話が殺到する。
欠陥品だと両手を広げぶつぶつと文句を言う彼に、ここでは簡単な機能の釣具が良いのだよと、私の使っているダイワMaxー9000 (当時6,500円)を奨めました。この話は1970年代の後半のことですから、かれこれ35年も昔のことです。しかし、私が1998年に帰任するまでそれを使っていました。
釣具を標準化したおかげで、今でも現地ではそのリールの多くが健在で釣りクラブの人に使われていると聞きおよびます。
ペルシヤ湾(アラビア湾)の釣りに際し、凝りに凝って研究したのが、仕掛け類です。
その材料を買うため、休暇のたびに釣具店をまわるのが楽しみでした。 大仰な仕掛けを注文するので、
「これじゃあねえ・・・、釣れませんよ、お客さん、クジラでも釣るんですか」
と散々皮肉られました。
何度も店に足を運ぶうちに店員とも仲良くなって、いろいろアドバイスを受けますが、やはり、日本の釣りとは事情が異なりますね。
この日は、先週にアマゾン河で釣りをするお客が大物仕掛けを買い占めて行ったそうです。 お目当ての仕掛けの在庫はなく、アラビアの釣り人たちに頼まれた特別製のアジサビキを、店にたのんでメーカーに2000個注文してもらいました。こんなものどうするの、とメーカーの人もびっくりしているでしょう。
(後日談ですが、このサビキはグアムのフィッシング会社がカツオ釣りに良いと目をつけて、2000個上乗せして生産したそうです。良く釣れるとの評判をとったそうです)
左:せいご針10号 ハリス: 4号
アジ、ヒラアジ、カマス等
右:せいご針18号 ハリス:16号
シマアジ、ヒラアジ、バラクーダ
イケカツオ、タイ等
10号サビキはアジや小ダイなど活き餌を釣るため。ハリスが太いのはごぼう抜きにしないと小バラクーダやサメなどがアジをパックン!おもりや仕掛けをそっくり取られてしまうからです。このハリスのサイズだと釣り針が折られるか、のばされるだけですみます。
18号サビキはそのまま、シマアジ、スマ、イケカツオなど大物用に使います。 メートル級が連荷でヒットすると、大概切られてしまいますが。また、さびきを半分に切って3本針の胴突き仕掛けとしてタイなどに使用します。
私が釣ったアラビアの魚は雑魚ををふくめ、90種類以上ありますが、その一部をご紹介します。釣りから帰ってきてデジカメで撮りました。 体長、重量もその時の記録です。
ちょいとフォルマリン臭くなりますが、図鑑や現地の文献で苦労して調べたので、学名を添えます。ここに何でスワヒリ語が?と思われるでしょうが、アラビア半島の紅海側やイエメン、オマーンなどはアフリカのスワヒリ語が魚名となっているからです。
学名 :Argyrops nufer
(Valenciennes)
英語名: Barried-silvery
Sea Bream
アラビア名:Nahash, Andag
スワヒリ名:Nyapinda
和名: タイワンダイの一種
実測: 全長68cm 3.4kg
学名 : Epinepheius taubina
(Forskel 1775)
英語名: Brown-spotted
Grouper
アラビア語: Hamoor
スワヒリ語: Chewa, Tewa
和名(類似種): ヒトミハタ、 クエ
実測: 全長66cm、2.8kg
―――――――――――――――
現地に釣り好きの人が赴任してきました。日本では名人級ともいわれる人。同好のよしみ、早速、休日に釣りに誘いました。
新品の道具をかかえてやってきたこの人、われら、現地の釣り人の仕掛けを見て、バカにしたような表情をみせていましたが、次々魚を釣り上げる私に、ついに泣きついてきました。
「4号のハリスを使っているけれど切られてしまう。あんた、どんなハリスをつかっているの?」
「今は12号さ」
「エッ!うそだろ!」
このあいだ注文し、日本から届いた特注のサビキ仕掛けを彼に見せ、
「もっとすごいのがあるよ。これ、よく釣れるよ、セイゴ針18号にシーガーのハリス16号を巻いてある」
「・・・・・・・・???」
唖然、呆然の彼に、当然顔の私は言います。
「ヒラアジ、シマアジの群れがきたら教えるよ。それを使ったらいいよ」
1ヶ月もたたぬうちに彼も当地の仕掛けに馴染んでくれました。
学名 :Guthenodon speciosusu (Forskel)
英語名 :Golden toothiess Trevelly
アラビア名:Beyad, Ribeebah
スワヒリ名: ?
和名(類似種):コガネシマアジ
実測: 全長58cm 2.2Kg
シマアジの引きはすごいですよ。この特注品すら切られることもあるのです。日本では一回で古い仕掛けは捨ててしまいますが、アラビアでは魚に持っていかれるまで使います。夜、ぼろぼろになった仕掛けを作り直すのも楽しいものです。
週末の釣りに行く際、アラブの釣仲間は
「今日はこんなものを作ってきたよ」
と、お手製の仕掛けを自慢げに見せてくれました。
学名: Scomberoides
commersonianus
(Lacepede)
英語名: Talang Queen Fish,
Spotted-leather skin
アラビア語: Telah, Shirwi
スワヒリ語: Pandu
和名(類似種): イケカツオ
実測: 全長98cm 3.7kg
* 東京の我が家、週末の夜遅く、息子が明日の釣りの準備をしています。
「この仕掛けのハリス、太すぎるかなあ、釣れねえよこれじゃあ」
惜しげもなく切って捨てています。アッ! それまだ使えるのに。
日本のお魚サンの気を引くのは大変なようですね。
彼の部屋は釣道具で一杯。竿も20本はあると思います。それに大小のリールの類。どれもこれもが、ウン万円する代物です。新製品がでると、また買ってしまうらしいのでどんどん増えるようです。日本の魚はセレブの釣具が好きなんですかねえ。
或る時、私は見かねて
「俺がアラビアから持って帰った釣道具があるだろう」
と言ったところ、
「古い古い、あんなものは博物館入りだよ」
と澄ましています。 そして、釣れるかどうかわからない魚を期待して電動や液晶パネルがついた高価なリールを磨いています。中には見ても何に使うか分からないハイテク釣具もあります。 年々、モデルチェンジするのでしょうから、その時古い釣具はどうするのでしょうか。
――――――――――――
アラビア現地のスポーツショップでは釣具はろくなものがありまれせん。したがって、赴任時に日本から引っ越し荷物に入れて送るか、休暇の時に買ってくるか、のいずれかです。
私が現地で使っていたものは、数千円の竿やリール、休暇の折に、アラブの友人の分をふくめ、同じ製品を纏め買いします。現地では壊れても修理が出来ないから、壊れたものは分解して部品を取っておくのです。
竿も同じ、ペルシャ湾(アラビア湾)の大魚とやりとりすれば、穂先は勿論のこと、根本の部分も折られることがしばしばです。だから、釣具は数種類に標準化するのが得策です。
だが、同じところがよく壊れます。 これも帰国した際にその部品を買いだめしておきます。
あるアラビア人は釣りカタログをみて、プロが使うような高性能のリールを日本人にたのんで買ってきてもらったのですが、過酷な大物釣りで一年もたたないうちにドラグナットが飛んでしまい、ギヤーも壊れて動かなくなってしまいました。
懐かしいダイワMax-9000 日本人が帰任の際、
アラブの釣り人は是非譲ってくれと、電話が殺到する。
欠陥品だと両手を広げぶつぶつと文句を言う彼に、ここでは簡単な機能の釣具が良いのだよと、私の使っているダイワMaxー9000 (当時6,500円)を奨めました。この話は1970年代の後半のことですから、かれこれ35年も昔のことです。しかし、私が1998年に帰任するまでそれを使っていました。
釣具を標準化したおかげで、今でも現地ではそのリールの多くが健在で釣りクラブの人に使われていると聞きおよびます。
ペルシヤ湾(アラビア湾)の釣りに際し、凝りに凝って研究したのが、仕掛け類です。
その材料を買うため、休暇のたびに釣具店をまわるのが楽しみでした。 大仰な仕掛けを注文するので、
「これじゃあねえ・・・、釣れませんよ、お客さん、クジラでも釣るんですか」
と散々皮肉られました。
何度も店に足を運ぶうちに店員とも仲良くなって、いろいろアドバイスを受けますが、やはり、日本の釣りとは事情が異なりますね。
この日は、先週にアマゾン河で釣りをするお客が大物仕掛けを買い占めて行ったそうです。 お目当ての仕掛けの在庫はなく、アラビアの釣り人たちに頼まれた特別製のアジサビキを、店にたのんでメーカーに2000個注文してもらいました。こんなものどうするの、とメーカーの人もびっくりしているでしょう。
(後日談ですが、このサビキはグアムのフィッシング会社がカツオ釣りに良いと目をつけて、2000個上乗せして生産したそうです。良く釣れるとの評判をとったそうです)
左:せいご針10号 ハリス: 4号
アジ、ヒラアジ、カマス等
右:せいご針18号 ハリス:16号
シマアジ、ヒラアジ、バラクーダ
イケカツオ、タイ等
10号サビキはアジや小ダイなど活き餌を釣るため。ハリスが太いのはごぼう抜きにしないと小バラクーダやサメなどがアジをパックン!おもりや仕掛けをそっくり取られてしまうからです。このハリスのサイズだと釣り針が折られるか、のばされるだけですみます。
18号サビキはそのまま、シマアジ、スマ、イケカツオなど大物用に使います。 メートル級が連荷でヒットすると、大概切られてしまいますが。また、さびきを半分に切って3本針の胴突き仕掛けとしてタイなどに使用します。
私が釣ったアラビアの魚は雑魚ををふくめ、90種類以上ありますが、その一部をご紹介します。釣りから帰ってきてデジカメで撮りました。 体長、重量もその時の記録です。
ちょいとフォルマリン臭くなりますが、図鑑や現地の文献で苦労して調べたので、学名を添えます。ここに何でスワヒリ語が?と思われるでしょうが、アラビア半島の紅海側やイエメン、オマーンなどはアフリカのスワヒリ語が魚名となっているからです。
学名 :Argyrops nufer
(Valenciennes)
英語名: Barried-silvery
Sea Bream
アラビア名:Nahash, Andag
スワヒリ名:Nyapinda
和名: タイワンダイの一種
実測: 全長68cm 3.4kg
学名 : Epinepheius taubina
(Forskel 1775)
英語名: Brown-spotted
Grouper
アラビア語: Hamoor
スワヒリ語: Chewa, Tewa
和名(類似種): ヒトミハタ、 クエ
実測: 全長66cm、2.8kg
―――――――――――――――
現地に釣り好きの人が赴任してきました。日本では名人級ともいわれる人。同好のよしみ、早速、休日に釣りに誘いました。
新品の道具をかかえてやってきたこの人、われら、現地の釣り人の仕掛けを見て、バカにしたような表情をみせていましたが、次々魚を釣り上げる私に、ついに泣きついてきました。
「4号のハリスを使っているけれど切られてしまう。あんた、どんなハリスをつかっているの?」
「今は12号さ」
「エッ!うそだろ!」
このあいだ注文し、日本から届いた特注のサビキ仕掛けを彼に見せ、
「もっとすごいのがあるよ。これ、よく釣れるよ、セイゴ針18号にシーガーのハリス16号を巻いてある」
「・・・・・・・・???」
唖然、呆然の彼に、当然顔の私は言います。
「ヒラアジ、シマアジの群れがきたら教えるよ。それを使ったらいいよ」
1ヶ月もたたぬうちに彼も当地の仕掛けに馴染んでくれました。
学名 :Guthenodon speciosusu (Forskel)
英語名 :Golden toothiess Trevelly
アラビア名:Beyad, Ribeebah
スワヒリ名: ?
和名(類似種):コガネシマアジ
実測: 全長58cm 2.2Kg
シマアジの引きはすごいですよ。この特注品すら切られることもあるのです。日本では一回で古い仕掛けは捨ててしまいますが、アラビアでは魚に持っていかれるまで使います。夜、ぼろぼろになった仕掛けを作り直すのも楽しいものです。
週末の釣りに行く際、アラブの釣仲間は
「今日はこんなものを作ってきたよ」
と、お手製の仕掛けを自慢げに見せてくれました。
学名: Scomberoides
commersonianus
(Lacepede)
英語名: Talang Queen Fish,
Spotted-leather skin
アラビア語: Telah, Shirwi
スワヒリ語: Pandu
和名(類似種): イケカツオ
実測: 全長98cm 3.7kg
* 東京の我が家、週末の夜遅く、息子が明日の釣りの準備をしています。
「この仕掛けのハリス、太すぎるかなあ、釣れねえよこれじゃあ」
惜しげもなく切って捨てています。アッ! それまだ使えるのに。
日本のお魚サンの気を引くのは大変なようですね。
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