すいとん汁の味を知っていますか

  「すいとん」という言葉の由来は知りませんが、 戦後の闇市派である私は、当時すいとん汁をいやおうなく食べざるを得ませんでした。

  いまどきの若い人は、理解できないとは思いますがその料理のレシピは
                     
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塩味の汁
メリケン粉(小麦粉)をこねた団子
大根の葉
さつま芋(農林1号という白っぽく、水気が多く、甘味の少ないさつま芋)
たまには、干し鱈

それらが入った程度のものでした。

それに、主食の大豆ごはん
麦と大豆のあいだから、まばらにお米が顔を出していました。
                     
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  時は、1990年代、私は中東の、とある石油基地に勤務していました。なにも娯楽がない沙漠の中、やはり、食事は唯一の楽しみでしたね。

 ある晩、独身寮ではおきまりのマージャン・パイがかき回されていました。イーチャンが終わり、その部屋のあるじの手料理がふるまわれました。ジャン仲間の日本人食堂のコックさんもシロート料理をつつきながら雑談、これも日々の仕事のストレスからの開放に役立っています。

 手料理に箸をつけている戦中派の一人が言いました。
 「戦争中や戦後はこんな、美味いものはなかったな」

 こんな、沙漠にも日本からはいろいろな食材が送られてきますから、シロートでも結構美味い料理が作れます。
 
 「すいとん汁ばっかりだったなあ~」
懐かしげにつぶやく戦中派のそばで、コミック誌を読みふけっていた若者が訊ねました。
 「へえ~、すいとんってなんスっか?」
 「えっ、君はすいとんを知らないの」

 それを聞いていたコックさんが口を挟みます。
 「それじゃあ、明日の昼に作ってあげますよ」

 翌日、日本人食堂ではカツや魚などの豪華な料理に交じって、懐かしい「すいとん汁」が振舞われました。私の隣の戦後闇市派の一人が言いました。
 「すいとんって、こんな美味かったっけなあ・・・」

 「昔、俺が食べたのは、さつま芋のつるが入ったやつだったよ」

 私も汁を一口すすってみて、昔に食べたものとは大分違うなと感じました。なぜなら、だしがきいていること、具が豊富なことです。 小麦粉のだんごはさておいても、えび、しいたけ、かまぼこ、ほうれんそうなどが入っています。

 二人でもう一杯、お代わりしました。

 翌日の晩、マージャン卓を囲みながら、懐かしかったとコックさんにお礼を言う戦中、戦後派に向って、彼は頭をかきながらいいました。

 「いやあ、まいりましたよ、こんな不味いもの、これは一体なんだ!と若い人たちからどやされましてねえ・・・」

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