すいとん汁の味を知っていますか
「すいとん」という言葉の由来は知りませんが、 戦後の闇市派である私は、当時すいとん汁をいやおうなく食べざるを得ませんでした。 いまどきの若い人は、理解できないとは思いますがその料理のレシピは *** 塩味の汁 メリケン粉(小麦粉)をこねた団子 大根の葉 さつま芋(農林1号という白っぽく、水気が多く、甘味の少ないさつま芋) たまには、干し鱈 それらが入った程度のものでした。 それに、主食の大豆ごはん 麦と大豆のあいだから、まばらにお米が顔を出していました。 *** 時は、1990年代、私は中東の、とある石油基地に勤務していました。なにも娯楽がない沙漠の中、やはり、食事は唯一の楽しみでしたね。 ある晩、独身寮ではおきまりのマージャン・パイがかき回されていました。イーチャンが終わり、その部屋のあるじの手料理がふるまわれました。ジャン仲間の日本人食堂のコックさんもシロート料理をつつきながら雑談、これも日々の仕事のストレスからの開放に役立っています。 手料理に箸をつけている戦中派の一人が言いました。 「戦争中や戦後はこんな、美味いものはなかったな」 こんな、沙漠にも日本からはいろいろな食材が送られてきますから、シロートでも結構美味い料理が作れます。 「すいとん汁ばっかりだったなあ~」 懐かしげにつぶやく戦中派のそばで、コミック誌を読みふけっていた若者が訊ねました。 「へえ~、すいとんってなんスっか?」 「えっ、君はすいとんを知らないの」 それを聞いていたコックさんが口を挟みます。 「それじゃあ、明日の昼に作ってあげますよ」 翌日、日本人食堂ではカツや魚などの豪華な料理に交じって、懐かしい「すいとん汁」が振舞われました。私の隣の戦後闇市派の一人が言いました。 「すいとんって、こんな美味かったっけなあ・・・」 「昔、俺が食べたのは、さつま芋のつるが入ったやつだったよ」 私も汁を一口すすってみて、昔に食べたものとは大分違うなと感じました。なぜなら、だしがきいていること、具が豊富なことです。 小麦粉のだんごはさておいても、えび、しいたけ、かまぼこ、ほうれんそうなどが入っています。 二人でもう一杯、お代わりしました。 翌日