ヤヤッ!かにが縦に歩いている
長い海岸線が続くサウジアラビアのアル・カフジの町。夕方の海辺を散歩していると何百匹ものカニが群れを成して歩いています。私が近づくと一斉に縦に走り出します。まるで都市マラソンのスタートのようです。私たちは幼い時からカニは横に歩くのを見て育ってきました。しかしこんな大群のカニが縦にあるくとは、まるでアラビアンナイトのような不思議な世界ですね。 40度を越す暑さのアラビアの昼間はさすがに一匹も姿は見えません。しかし長い浜辺にはいくつもの砂の塔が作られています。ここが彼らのねぐらなのです。このカニ、前から見ると可愛いのですが、その甲羅には髑髏を思わせる紋様が刻まれています。だから人呼んでガイコツガニ。私はこの不気味なカニに恐怖をおぼえさせられた事がありました。 ある日の夕方、私は仕事を終えて夕食の食卓の一品を飾ろうとキス釣りに興じていました。その日はさっぱり当たりがなく夕暮れになってようやく一匹、二匹と釣れはじめました。あたりが薄暗くなったころ、波打ち際に引き寄せた獲物に何者かが襲いかかりました。執拗にしがみついているそれはあのカニでした。身を屈めそれをふるい落とそうとした私の眼にうつったのは砂浜の無防備の私の裸足を狙ってキシキシと音を立てて偲びよる幾百のカニの大群でした。 いささか恐怖を感じた私は棒切れを拾って何匹かをたたきつぶしました。すると予期せぬ事がおこりました。たたきつぶしたカニになんとその仲間が寄ってたかってしゃぶりつき、ハサミで肉を切り取り食べ始めたのです。カニの死骸は見るまにばらばらになって消滅してゆきました。 薄暗い中にうごめくガイコツガニの大群にはこの世のあらゆる悪行が収斂して、それがこの暗闇の中に一挙に吹きだし襲いかかってくるように見えました。私はそのおぞましさに背筋が寒くなり一目散に逃げ出しました。 たすけて~え! はやくパトカー来て~エ