小説 湾岸戦争―「男達の叙事詩」を読んでみて
私の経験した出来事が小説になった。勿論、私が主人公であるわけがないが、モデルとされる人物は端役としてあちこちに登場している。小説だからフィクションは当然だが、総体的に見てストーリーの流れは事実に基づいている。物語は1990年8月のイラクによるクウェイト侵攻をきっかけに起った湾岸戦争、中東の日系企業で働いている駐在員たちが否応なしに戦闘に巻き込まれてゆく伊吹正彦氏の企業小説である。 湾岸戦争 、当の昔に一般の人々に忘れられてしまった中東での出来事であろう。しかし、今年のアルジェリアの日本企業でも悲劇が同じようにくりかえされた。身動きが出来ない情勢の中で死を受け入れなければならなかった犠牲者の方々に心からお悔やみ申しあげる。湾岸戦争では日本人に死者こそ出なかったものの、一歩間違えればとんでもない事になっていたろう。 私は湾岸戦争の後に、本の題材のカフジ基地の復興にいち早く参加した。そこでは戦火で焼け焦げた会社の施設や町の建物を目の当たりにした。まだ残る地雷、不発弾、海上勤務の際の浮遊機雷の恐怖などに加えクウェイトの油田火災による深刻な大気汚染の中に身をさらさねばならなかった。 戦火がおさまって3ヶ月たっても道に転がっている腕時計や人形に仕込まれた爆弾(ブービートラップ)を拾って負傷した少女のニュース、町の食料倉庫の中に潜んでいた2人のイラク敗残兵が捕まったなど戦争の余波も残る不安な生活を余儀なくされた。 伊吹正彦氏が執筆した小説湾岸戦争―「男達の叙事詩」は企業小説でありながら、当時の国際情勢の中でイラクの人質となった日本人達とその救出、戦争勃発によって見舞われたロケット弾の雨、その中で取り残された48人の日本人職員の脱出、家族との絆、会社との葛藤などをことごとく吐露した冒険小説であるかもしれない。 本を読みながらそこに登場する色々な男たち、見覚えのある沙漠の風景の描写とあいまって私の脳裏にノスタルジックな感情が沸き起こってしまった。 ただ、この種の小説に見られるハッピーな結末と違って「男たちの叙事詩」には戦後の疲れ果てた企業戦士たちが病を得てこの世から去ってゆく有様が書かれている。 これは実際にあった話で、物語では仮名が使われているが私にはその人物が誰々であるか推測できる。本を読み終えて、しばらくは涙目となったのは長時間の小さな活字を読み続けたという理