嫌な奴には手にキスをしろ。そして・・・-実際に見たアラブの格言
アラブ諸国で勤務していると、電話で済ますような用件でも直接その人に会って話した方が、仕事がはかどるようです。相手が私のオフィスにくることもあれば、相手を訪ねなければならないこともしばしばです。アラブでは仕事の話に入る前にまず、シャイ(お茶)を飲みながら長々と雑談を交わします。 ご多分にもれず、よもやま話の内容は人の悪口にもおよびます。 あるアラブ人の部長のオフィスでの話です。彼は私の知り合いでもあるA氏の悪口を散々ならべたて、私の印象ではこの二人が顔をあわせたら刃傷沙汰 になるのではないか、と思われるくらい激しい口調でした。 ある日、スーパーマーケットでこの二人が肩をだきあってアラブ流に頬にキスをして挨拶する光景を目撃しました。私も目が合ってしまったのでこのお二方と握手をし、 にこやかな笑顔で挨拶しました。しかし、先日のこともあって何とも割り切れない気分でした。 翌日、用があって部長のオフィスを訪ねました。お茶を飲みながら何故そんなに嫌っている相手に親しげにするのか、私のみならず日本人には理解出来ないとその理由を訊ねました。彼は大笑いして、 「私たちは嫌な奴でもたえず笑顔で接する。 A氏は大嫌いな男だが私の仕事や、社会上の付き合いで必要な人間なのだ。 だから、そうするのだ。 ただし、(たとえだが)右手で握手してもポケットの中の左手はナイフを握って用心しているのさ。 それとも日本人は嫌な奴はすぐ(日本)刀で殺っちゃうのかね」 まあ、きつい冗談でしたけれどもアラブの格言では 『噛み付いてはいけない(嫌な)相手には、手にキスをしてこの手が折れろと祈れ』 『イヌのような奴でも、ご機嫌いかがと挨拶せよ』 あるいは逆の立場からは 『ライオンが歯を見せても、微笑みと誤解するな』 と、ありますからアラブ社会では格言を日常的に実行しているのですね。 ニュースで報じられる笑顔で握手をし和平に応じるアラブの外交、その合意がすぐ反古になるのはこの格言からも読み取れることが出来ると思います。 先ほどのアラブの部長のきつい冗談は、昨今の日本では日常茶飯事の事件になっているのではないでしょうか、 それも嫌な相手どころか「誰でも良かった・・・」とは! 日本人から笑顔が消えてしまった、と寂しい気がします。